潮風を浴びながら炭を焼く ~工房 山七~
市民ライター 浅野 直彦
広い空の下にある工房
炭焼きというと、山の中で作業しているところが多いですが、名取市には海のそばで炭を焼いている工房が有ります。今回はその工房山七(やましち)の今野(こんの)さんを訪ねました。
仙台空港の近く、新しくできた名取市道広浦北釜線沿いに工房はあります。近づくとパチパチと炭酸水が弾けるような音が聞こえてきます。窯のある建物の周りに積まれている薪が乾いていくときに発生する音です。薪は2年ほどの時間をかけて乾かしますが、2年目になってもまだ薪から音が出ていて、完全に乾燥させるためには長い時間が必要だということです。
一から手作りで工房を構える
工房山七は2017年から作業小屋を今野さんや仲間の手で作り始めたところから始まりました。2018年には土窯も手作りで構えました。窯づくりは熊本県の学校で勉強したものです。このときは、1ヶ月の間、現地に泊まり込み、集中して基礎から学びました。そしてその後も、自分の進めている作業手順が間違ってはいないか、省みるために折に触れ熊本に通っています。今年以降に、2号窯の作成にも取り組み始めるそうです。
また、今野さんの炭焼きの師匠は、丸森町の筆甫地区で炭焼きを営んでいます。今でもそこに通い、師匠の手伝いをしながら炭について学んでいます。工房はハード面とソフト面共に少しずつですが、確実に拡充しています。
「海は森の恋人」と思いを共に
「海は森の恋人」という言葉が有ります。宮城県気仙沼市から始まった自然保護活動です。海の豊かさは、海に流れ込む川に含まれている栄養が支えており、その栄養は森を通って川に流れ込む雨水が運んだもの。海を豊かにするためには森を育て、土壌を養うことが重要だとする運動です。
今野さんも、この運動のことを書いた本を読んだときに、炭を焼くことが土壌を養うことに繋がっていると考えました。そして、広大な森を育てること以外にも、身近な里山を本来あるべき姿に還すこと、その保全作業の過程で発生した端材も余すことなく土に返すには、炭にすることがとても有効であると考えました。
いくつもの繋がりと広がり
工房山七の名前は宮城県黒川郡大和町にある「七ツ森」に由来します。今野さんの祖先が店を営んでいた時代につけていた屋号、それが「山七」です。
今野さんが炭を焼く工房を構えるにあたり、久しく絶えてしまっていた屋号を復活させました。自分に繋がるルーツとして、苦労した祖先が名乗った屋号を、大きな決意を持って掲げました。
炭にしている竹や木は、主に地元の名取市で採れたものです。荒れてしまった里山の環境を整備し、元の姿を取り戻すための活動をしている名取エコの森という一般社団法人があります。この法人が活動をしていく中で発生した竹や木を譲ってもらい炭にしています。
また、農家から頼まれて、梨の木も炭にしました。この梨の木は、果樹園で作物をつけなくなった老木を切ったものを炭にしたものです。梨の木の炭は、柔らかい炭になるので着火がよく、他の堅い炭に火を移すための導入役にもなります。また、柔らかいため砕くのが容易で、土壌改良材としての加工もしやすいのが特徴です。
発生した伐採物を単に焼却処分してしまうのでなく、燃料や土壌改良剤として活用することで、自然の豊かな実りを余すことなく使うことができます。
考えを創る工房に
工房は飛行場に近く、発着陸する飛行機を間近に見ることができます。この場所で炭を焼いている時間は、窯の中の温度や炎の色などをつきっきりで見守り、同時に色々なことに思いを巡らせることができる時間です。そのときに考えたことが今野さんの次の行動の原動力となっています。
この思索の時間を重ねることで、工房山七発の炭を使った新しい企画が生まれてくるでしょう。
「ここは炭を作るだけでなく、炭を通じて考えを創る工房でありたい」こう語る今野さんの「炭を使って地域を元気にする」というテーマは尽きることがありません。