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里山はビオトープ               ~一般社団法人 名取エコの森~

ライター:浅野直彦

竹林と聞くと、写真にもあるように綺麗な緑色の竹が並んだ明るい林を思い浮かべる人も多いと思います。その竹林からは春になるとタケノコが生えてきて、豊かな恵みをもたらしてくれます。
 
でも、その竹林は決して手付かずの自然ではありません。維持管理をする人がいることでその綺麗な環境が保たれています。
 
その竹林のある里山が、所有者が高齢化したり地元に住んでいない後継者が相続したことなどで、管理されることなく放置されてしまい、環境が悪化することが日本中で問題となっています。
 
荒れてしまった里山を、再び以前のような姿に戻し、環境を維持できるように活動をしているのが、「一般社団法人名取エコの森」です。
 
名取エコの森は平成26年からメンバー5人で活動を開始し、現在は箱塚地区や愛島地区にある里山の所有者から依頼を受けて環境保全活動を行っています。


長い期間をかけて里山の姿を戻していく

その活動は、一朝一夕で整備できるものではありません。

これは、依頼された当時の里山の写真です。竹は地下茎であらゆるところに伸びていきます。そして成長も早く数ヶ月で何メートルもの高さになります。また、真上に伸びるだけでなく、斜めに生えるものもあり、整備する人たちの行手を阻みます。その合間にナラ等の木も有りますが、こちらも樹齢を迎えて枯れているものが多いです。

今回、里山を案内していただいたところでも、大木が数本倒れて全体的に朽ちてしまっていました。立っている木でも、これと似たような姿になっている木が何本も有り、いつ倒れてきてもおかしく無い状態です。さらに葛をはじめとする蔓性の植物や、多くの下生えの草が強固に絡み合っていました。
 
この里山については、竹林の整備の前に手前の草を刈るだけで3年かかり、その後の作業を含め8年がかりで密集した竹林の伐採や作業道の整備を行ない、現在の姿にまで再生させることができました。

自然から出たものは、自然に還す


名取エコの森の活動は、環境省や宮城県が発行する里山を整備する活動を紹介する冊子で、何度も掲載されています。
 
紹介される大きなポイントは、単純に生い茂った木や竹を伐採し焼却等の処分をしてしまうのではなく、活動をSDGsでも言われている持続可能なものとしているところです。

名取エコの森では里山の環境整備の作業をすると発生する大量の木や竹は、チッバーという機械で竹を細かく砕きチップに加工します。このチップは整備した後の竹林に敷き詰めたり、近所の農家に土壌改良剤として提供して畑に使用されています。こうすることで竹はやがて土に還っていきます。

地域と共存できる里山であり続けるために

ビオトープという言葉を目にすることも多くなりました。ビオトープは水辺に関する取り組みについて使われる場面が多いですが、本来その地域に住むさまざまな生物が安定して生息できる空間のことを指す言葉で、環境が維持管理されている里山もビオトープです。
 
名取エコの森の活動により、以前のような下生えが無く開けた環境に戻った竹林では、小さな子どもも入れるようになり、近所の保育園の子どもたちがタケノコを収穫するイベントも開かれるようになりました。

竹やタケノコを見たことがあっても、写真のようにタケノコが竹になっていく様子を見る機会はあまりありません。里山は動植物が生まれ、成長し、やがてまた土に還るところを知ることができる場所にもなります。

しかし、この環境もまた刻一刻と変化していきます。
 
竹は成長も早いですが、20〜30年で枯れてしまいます。今回取材した際も、作業路に倒れている竹が一本ありました。

一度整備しても、環境維持は続きます。ですが、名取エコの森がいつまでも同じ竹林の維持管理をし続けることはできませんので、地権者・管理者が主体的に関われる土地は管理を引き継いでいきます。
 
現在、里山の所有者・管理者同士の口コミで名取エコの森の評判が広まり、環境整備の依頼は増加する一方です。しかし、人的、時間的制約もありその全てには応えきれなくなっています。
そのことから、今後はこのような活動をする団体が増えるよう、後進の育成にも力を入れていくことを考えています。
 

一度失ってしまい、その後取り戻した「普段そこにある里山」がいかに大切なものかということを再認識してもらい、ひとつでも多くの里山の景観が、それぞれの地域により自発的に保全できるよう、名取エコの森は活動を進めていきます。


写真提供:名取エコの森 杜せきのしためぐみ保育園
参考文献:令和2年度森林・山村多面的機能発揮対策交付金活動事例集(林野庁)
令和4年度森林・里山林再生の取り組み集(宮城県森林・山村多面的機能発揮対策地域協議会)
 
連絡先
名取エコの森 natorieconomori@touhoku.me
 


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