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チャイムのない小学校         ~名取市立増田西小学校~

市民ライター:浅野 直彦

ほとんどの小学校では授業の始まりと終わりにチャイムが流れます。児童も先生もそれに合わせて学校生活を送ります。
ですが、名取市立増田西小学校ではチャイムが流れません。その代わりにそれぞれのクラスで時計を見て、児童が自分たちで学校生活の時間に合わせて行動しているそうです。

本当に、そのようなことができるのでしょうか?
どうしてそのようなことになったのでしょうか?

今回はこのことについて、増田西小学校の大瀧(おおたき)教頭先生にお話を伺いました。

徹底した「ノーチャイム制」全国的にも珍しい取り組み

名取市立増田西小学校

学校でチャイムを流さないことは、「ノーチャイム制」と言われ、増田西小学校独特の制度ではありません。ノーチャイム制にも何段階かあり、1時間目の始業時だけはチャイムを流したり、給食の時間の前後だけ流す、行間の時間の前後は流すなど、学校によって取り組みは様々です。

ですが、増田西小学校のノーチャイム制は1日中全くチャイムを流しません。ここまで徹底して流さない学校は全国的にも珍しいそうです。

東日本大震災をきっかけに

増田西小学校がノーチャイム制を導入したきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災がきっかけです。
名取市の沿岸部にも大きな津波が押し寄せ、多大な被害をもたらしました。内陸部にある増田西小学校は津波の被害はありませんでしたが、沿岸部の人を中心に多くの避難者が小学校の体育館に身を寄せ、避難生活を送りました。

避難生活が始まった直後は、着の身着のまま市内各地の避難所に被災者が避難していました。やがて避難生活が長期化すると、運営・維持の点からそれぞれの避難所の被災者が地区ごとにまとめ直されました。以前から見知った人達で集まる。そのことで避難所での生活が少し落ち着いてきたそうです。

そして4月、小学校の児童と避難者との間で交流を持つ機会が作られるようになりました。それは、児童が学習する場所を使ってしまって申し訳ないと思っている避難者と、避難者に気を遣うあまり、自分のやりたいことを過剰なまでに我慢している児童たちとの間に生じてしまった、距離を縮める大切な機会でした。

生き残った自分にできることは何か

その交流の中で児童が、避難者からチャイムについての話を知りました。
体育館での避難生活というものは、慣れない集団生活や将来への不安などからストレスが溜まるものでした。ストレスを少しでも低減するためには、身体を休めることが大切ですが、小学校なので定期的に、かつ頻繁にチャイムが流れます。その音で気持ちが休まる時間がないという人も居ました。

このことを聞いた児童たちが考え出した解決方法が、「チャイムを流さないようにして、避難者の方がゆっくりと休めるようにする。授業の始まりや終わりは自分たちで管理する」ということでした。

このことが当時の古山校長先生(第14代校長)、鈴木先生(副主任。後に第17代校長として増田西小学校に赴任)に伝わり、先生方の尽力もあり2011年5月から増田西小学校では、時間の区切りとしてのチャイムを一切流さなくなりました。

学校という公的な場所で、そのような大きな変化が短時間で決まったことは驚きでもあるのですが、震災の直後は「誰もが生きることに前向きになっていた。生き残った者の使命として、何か他の人の役に立てることはないかという空気があった。その表れだったのではないか」と大瀧教頭先生は当時を振り返ります。

自分で時間を管理する児童たち

ノーチャイム制を導入して、児童たちに影響が出ることも懸念されたのですが、それは杞憂に終わりました。
ノーチャイム制が開始された直後から児童は自分たちで時計を見て、お互いに注意し合いながら学校生活を送ることができました。まだ時計の読み方を習う前の入学直後の新1年生でも、先生が「長い針が〇になったら教室に戻ってきてね」と言うだけでちゃんと時計を見て動くことができるそうです。

また、校内行事などで通常と違う時間割で動くことになった場合、普段から時計を見て行動することが身についているので、そのときに合わせて柔軟に行動を変えることもできるようになりました。

そして逆に、スピーカーから音が出ることにとても敏感になりました。校内放送では大切な連絡が流れます。ときには緊急放送が流れることもあります。普段スピーカーから音が出ないので、児童は休み時間などざわついているときでも、放送が始まるとすぐに静かになり、耳を傾けるようになりました。

無いことに込められた誇りと思い

多くの避難者が過ごした体育館

被災者の体育館での避難生活は2011年7月まで続きました。
そして、東日本大震災から10年以上が経ちましたが、増田西小学校のチャイムは流れないままです。入学当時からいる児童はあまり違和感を感じませんが、転校してきた児童、そして転勤して赴任した先生方も最初はこのことに驚くそうです。

増田西小学校のチャイムのことを誰かに聞かれたとき、増田西小学校の卒業生も、在校児童も、ノーチャイム制の導入を決断した先輩方の思いと誇りを受け継いでこう答えます。

「私たちの小学校にはチャイムがありません」